三月のバスで待ってる


「それは……」

杏奈は気まずそうに押し黙る。

私は答えを知りたいような、知るのが怖いような、複雑な気持ちで見つめた。

けれど杏奈の口から告げられた答えは、私の想像のどれよりも聞きたくないものだった。

「……先生に頼まれたの。転校したばかりで大変だろうから、仲良くしてほしいって」

「……え?頼まれた……?」

頭を殴られたような衝撃だった。

でも、すぐに納得した。

ああ、そうかーー思わず自嘲的な笑みがこぼれた。

考えてみれば、いかにもあの先生がやりそうなことだ。人のいい杏奈はそういう役にぴったりだし、彼女は先生の言いつけ通り、その役を完璧にこなした。何度も部活に誘ってきたのだって、きっと時間を合わせて一緒に帰るためだろう。私を見張るために。

少しも気づかなかった。最初は疑ったけれど、裏のなさそうな彼女の態度に徐々に心を許していった。

杏奈が慌てて言葉を続ける。

「でもね、あたし……」

もうなにも聞きたくなかった。

「大丈夫だよ」

と私は顔をあげて言った。

「私、1人なんて慣れてるし、全然大丈夫だから。心配しなくていいから」

「深月……」

何か言いたそうな杏奈の声を無視して、私は淡々と続けた。

「人がよすぎるよ。先生に頼まれたからって、自分が悪く言われてまでそんなことしなくていいよ。気遣われながら一緒にいるなんてお互い疲れるだけだし、はっきり言って迷惑だから」

普段の私からは考えられないくらい、はっきりと口にした。

嫌われてもいい。むしろ思いきり嫌われたほうがいい。

杏奈がうつむいて、自分の荷物を手に取った。

「そっか……迷惑だよね、ごめんね。荷物、ここに置いとくね」

杏奈はそう言って、保健室を出て行った。

ーーああ、言ってしまった。そう言ったら友達を失うとわかっていたのに、わざとそうした。

でも、これでよかったんだ。杏奈は優しいから、断れなくて一緒にいてくれたんだろうけれど、私のせいで迷惑をかけるくらいなら、ずっと1人でいたほうがいい。

大丈夫。これまでもそうだったし、元に戻るだけだ。