三月のバスで待ってる




窓を叩く雨の音で目を覚ました。

白い天井。薄い水色のカーテン。静かだ、と思った。さっきまでいた保険の先生はどこかに行っているらしい。物音ひとつしない保健室でぼうっとしていると、ふいにドアの向こうから足音が聞こえてきた。

コンコン、とノックの音の後に、「深月」と呼ぶ声。杏奈だ。ドキリとしながら、小さく返事をした。

「入るね」

杏奈はおずおずとドアを開けて入ってくる。肩には私の鞄がかけられている。わざわざ持ってきてくれたのだと思うと、申し訳なくなった。

結局、朝から下校の時間までずっと保健室にいた。お昼に先生が給食を持ってきてくれたけれど、食欲がないと言って下げてもらったのだ。

「深月」

そう呼ぶ声とともに、カーテンが開いた。杏奈が見たことがないほど苦しそうな顔をしている。

その顔を見て、私は絶望的な気持ちになった。

ーー知ってるんだ。

知られたくなくて、必死に隠そうとしていた自分が馬鹿みたいだ。

「ごめんね。私、深月の噂、最初から知ってたんだ。入学式の日、深月が帰った後、クラスの子が話してるの聞いちゃって……」

杏奈が絞り出すような声で言った。いつもの快活なら調子はどこにもなく、相当な勇気を振り絞って話してくれているのがわかる。

でも、今の私には、「知られた」というショックが大きすぎて、素直に耳を傾けられる気持ちになれなかった。

「……知ってたなら、どうして」

なにも言わなかったの。
同情で友達になろうと言ってくれたの?