翌朝、私はいつもより早く家を出た。
今日は学校をサボるつもりだったけれど、平日の朝から私服で出かける言い訳も思いつかないので、制服に着替えた。
緊張で、朝食はまともに喉を通らなかった。少しパンをかじっただけで立ち上がった私に、お母さんは体調が悪いんじゃないかと心配そうにしていたけれど、大丈夫だから、と言って玄関を開けた。
空はすっきりと晴れていて、透き通るような青空に、さっと筆を散らしたような細かな雲が浮かんでいた。春らしい陽気。大丈夫、今日はきっといいことがある、と前向きな気持ちでバス停に向かった。

バス停には誰もいなかった。まだ早いし、それもそうかと思い、ベンチに座って待つことにした。
いつもお守りのように鞄に忍ばせている1冊の古い文庫本を取り出して、ページを開いた。
想太が高校生の時に好きだったという小説。おもしろくて、バスの中で一気読みをしてからも、何度も読み返した。
いじめが原因で好きだった本まで読むのをやめてしまったけれど、再び魅力を教えてくれたのがその本だった。
それ以上に、想太と好きなものを共有できたことが嬉しかったのだ。