三月のバスで待ってる


ご飯を食べ終えて部屋に戻った。
ベッドで横になってぼんやり携帯を見つめていると、コンコン、とドアをノックする音が聞こえた。
「お姉ちゃん、入っていい?」
と深香の声。
いいよ、と力なく返事をすると、深香が入ってきてドアを閉めた。
「……どうしたの?」
「お姉ちゃん、元気ないから。何かあったのかなって」
と窺うような声に、私は強がる余裕もなく、正直に答えた。
「うん、あった」
「やっぱり。意地っ張りなお姉ちゃんが素直に認めるなんて、重症だよ」
「私、意地っ張りじゃないよ」
「自分でそう思ってるだけでしょ?お姉ちゃんは頑固だったよ」
言うようになったなあ、と私は苦笑する。
そういえば、昔から言いたいことをなんでもずけずけ言ってくる性格だったなと思い出す。私も幼い頃は、深香のいうように意地っ張りだったのかもしれない。
「大切な人が、突然いなくなったの」
私はぽつりと洩らした。
「ある日突然、なんの前触れもなく、どっかに行っちゃった」
深香は目を丸くして、それからすぐに神妙な顔つきに戻って尋ねる。
「どこに行ったかわからないの?」
私は首を振った。どこにいるか、それさえわかればいますぐにでも飛んでいきたい気持ちだった。
「……でも、私なんかが踏みこんじゃいけない気もするし」
弱音を吐き出すと、止まらなくなった。関係ない、そう言われた。突き放すような目が怖くてなにも言えなくなった。でも、どうしても気になってしまう。
黙って聞いていた深香は、ため息を洩らすようにつぶやいた
「……びっくりした。お姉ちゃんにそんなに大事な人がいたなんて」
でも、と深香は続ける。
「なんか、納得したかも。お姉ちゃん、引っ越してから、変わったから。ずっと塞ぎ込んでたお姉ちゃんに前を向かせてくれるような、そういう人がいたからなんだ」
改めて言われると、恥ずかしいけれど。自分が変わったのは、自分が一番よく知っている。それが彼のおかげだということも。
「あたし、ずっと後悔してた。お姉ちゃんにひどいこと言ったこと。本心じゃないのに、あんなこと言って。でも、ちゃんと言ってよかった。言葉にしなきゃ伝わらないって思った。だから、まだわかんないよ。本当のことは、その人にしかわかんない。その人の口から、ちゃんと聞かなきゃ」

「……うん、そうだよね」 

私は驚きながら頷いた。力強い言葉が、ついこの間まで私と同じようにうつむいていた3つ下の妹のものとは思えなくて。でも、そうだった。深香は小さい頃から私よりもずっと前向きで、強い子だった。