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鐘が鳴って、午前のテストが終わった。勉強した甲斐あって、自分なりに手応えはあったと思う。
「深月、お弁当食べに行こー」
さっそく杏奈がお弁当のバッグを手にしてやってきた。
「あ……私は、ここで食べるよ。3人で行ってきて」
そう言うと、杏奈は顔をしかめる。
「どうしたの?さっきも様子変だったけど」
「どうもしないよ。昨日遅くまで勉強してて、ちょっと寝不足なだけ」
心配かけないよう、私は苦笑いしながら言った。
「そっか。じゃあ行くけどわなんかあったら電話してね?」
「うん。ありがとう」
杏奈の優しさに感謝するけれど、いまはなるべく顔をあげたくなかった。
幸い、彼女たちと席は離れていた。できるだけここを動かず、顔を伏せていれば、気づかれずにやり過ごせるはずだ。
ーー大丈夫、大丈夫。
呪文のように心の中で繰り返しながら、お母さんが作ってくれたお弁当を机に広げて食べる。
騒がしい広い部屋の中、ひとりでお弁当を食べていると、嫌でも前の学校での暗い記憶を思い出す。
いじめとあの噂が原因で、人の顔を見るのが怖くなったこと。誰とも話すことなく、ひとりでお弁当を食べ、1日中教室の隅でじっとしていた。それでも針のように全身に突き刺さる視線を常に感じていた。逃げたかった。そして、逃げてきた。
転校してからは、そういうことがなかった。杏奈がいつもいてくれたから。私をひとりにさせないよういつも気を使ってくれていたから。
それがどれだけありがたかったか、改めて実感する。
恵まれてるな、と思った。悪いことばかりじゃなかった。
お腹が満たされると、さっきまでの不安は大分薄らいだ。単純なつくりの体でよかったと思う。
午後からはまたテストに集中して、あと半日何事もなく乗り切ろう。

