夜中にガシャンという音が聞こえ、私は目を覚ました。

下階から両親の言い争うような声も聞こえ、何事なのかと私は、そろりと階段を降りて、リビングを覗く。



「ねぇ、どうして? こんなのあんまりよ」


母は泣いていた。

父はその向かいで頭を下げていて、足元には割れたグラスがあった。



「信じられない。嘘だと言って。ひどすぎる裏切りだわ。許せない」

「すまない。憎んでくれ。それできみの気が済むなら」

「最低ね」


本当に、最低だと思う。



父は長年に渡り、不倫していた。

しかも相手は、圭吾の母だ。


両家の両親は幾度となく話し合いを重ねた後、離婚することを決め、それから間もなく、父と圭吾の母は、ふたりでどこかに消えてしまった。




最悪だったのは、その話し合いの最中だ。



どこから漏れたのか、隣人同士のスキャンダラスな話はおもしろおかしく近所に知れ渡り、すぐに学校にまで伝わった。

私はショックと恥ずかしさで不登校になり、部屋から一歩も出られなくなった。


だから私はあの夜以来、父とは会っていないし、小学校の卒業式にも出られないままに、ある日、母に「この家を出るわよ」と告げられた。


圭吾のことが気にならないわけじゃなかった。

けれど、もう二度と昔のようには戻れないことはわかっていた。