「離してよ。何で追いかけてくんのよ」

「お前が逃げるからだろうが」

「圭吾に会いたくなかったからだよ。わかるでしょ?」

「わかんねぇよ。あれは俺が何かしたわけじゃねぇだろ」


確かに圭吾が何かしたわけじゃない。

だけど、あれ以来、私は圭吾の顔を直視できない。



「さーちゃん! 圭吾!」


遅れて翔太くんが追い付いた。

結衣もぜぇぜぇと息を切らしながら、私たちのところへやってくる。



「ねぇ、何なの!? 沙奈、どうして泣いてるの!?」


泣いている?

言われて初めて自分の涙に気が付いた。


私は唇を噛み締め、今度こそ圭吾の手を振り払い、涙を拭う。



「別に何でもないよ」


そうとだけ返す私に、圭吾は息を吐く。



「沙奈。お前、今、どこ住んでんだ? おばさんは? あれからどうしてた? こっち向けよ。ちゃんと話そう」

「圭吾と話すことなんか何もない。もう私のことは放っておいて」

「俺は、あれからずっと、お前のこと探してたよ」

「やめてよ。私はあの頃のことも、圭吾のことも、何もかも思い出したくないの」


睨むように目を向けると、圭吾は小さく舌打ちする。

私は、無視して再び歩を進めた。


圭吾は、今度はもう、追いかけてはこなかった。