どくん、どくん、と鼓動が速い。

立ち止まった先には、見慣れた家が今もあった。


右が圭吾の家で、左が4年前までの私の家。



私の家だった場所には、知らない表札が出ていて、玄関先には子供用の青い自転車もあった。



私たちが失ったもの。

途端に涙が溢れてきて、やっぱり帰ろうと思った時、



「……沙奈?」


と、背後から呼ばれた。

弾かれたように顔を向けると、コンビニ袋片手の圭吾が。



「何やってんの? つーか、何で泣いてんの? もしかして俺に会いにきた?」


別に圭吾に会いにきたわけじゃないよ。

と、言うと思ったのに、上手く言葉にできなかった。


溢れた涙が止まらない。



圭吾は困惑しきりだったが、犬を散歩していたおじいさんに不審な目で見られ、



「これって俺が泣かしてるようにしか見えねぇじゃん」


と、ため息を吐いた。



「とにかく夜だし寒いし、中入れよ。な? どうせ今日も親父はいねぇから、何も気にすることねぇし」


相変わらず、泣いたままで何も言えない私は、ほとんど圭吾に引っ張られるようにして玄関をくぐった。


昔は当たり前みたいに遊びにきていた家。

すっかり女の気配は消えて、男だけの暮らしは物が増えて少し散らかっているようだったが、でもやっぱり懐かしさの方が勝った。