「あんまりお金ないからこういうのしか買えなかったんだけど、今日の記念っていうか、何か形に残したいなって思ってさ。ほら、これ見たら今日のこと思い出せるっしょ?」

「それで何でピンクなの?」

「え? だって、沙奈ちゃんに一番似合うと思ったし、それに女子は好きっしょ? ピンク。可愛いじゃん」


私はピンクなんて嫌いだ。

そう思った瞬間、今日一日ずっと我慢していたものが、一気に噴き出した。



「受け取れない」

「えっ」

「っていうか、『友達』も無理だし、山西くんとはもう会いたくないから連絡してこないで」


はっきりと言った私に、山西くんはひどく驚いた顔をする。



「意味わかんないんだけど。この2週間、ずっと楽しかったのに? 今日だって昼奢ったじゃん。何でいきなりそんなこと言われなきゃなんねぇの?」

「私たち、合わないと思う」

「は? 今さらかよ」


怒った山西くんは、瞬間、ピンクのクマのキーホルダーを、地面に叩き付けた。


カシャン、と音がする。

4年前に聞いた、グラスが割れる音と重なる。



「時間の無駄だった。最悪」


本当にそう。

私が取り戻したかったのは、こんな時間じゃなかった。


言い捨てた山西くんは、怒りのままに私に背を向け、それから二度と振り返ることはなかった。