「もしあんなことがなかったら、今、俺らは付き合ってたのかな」

「そんな仮定の話はわかんないよ」


鼻先が当たりそうな距離で、上手く息もできない。


圭吾はもう、すっかり私の知らない『男』で、でも目だけはあの頃と変わっていない。

だから戸惑いばかりが大きくなる。



「ずっと一緒に育ってきて、隣にいるのが当たり前だと思ってたのに、何で俺に一言もないまま、勝手にいなくなったんだよ」


圭吾の手が、私の頬に触れた。


涙が込み上げてくる。

4年前のあの日に失ったのは、もしかしたら親ではなくて、自分の半身だったのだろうか。



「沙奈」


圭吾が私の名前を呼ぶ。

そのまま抱き寄せられて、どちらからともなくキスをした。



私たちは、相手の中に、失ったものを探したかったのかもしれない。

大切に、壊さないように、空白を埋めるようにして互いを求めることで、過去と邂逅したかったのだろう。


それがただ、傷を舐め合うだけの行為だったとしても。



泣いているのは、今の私なのか、それとも幼かった頃の私なのか。

肌と肌が触れ合って、痛みが混じる。



私たちを世界から隔絶するような雨は、今も降り続いたまま。