テスト前ですら勉強しない結衣が、数学のノートを借りたいということだけでも違和感があったが、さらにもうすぐ夜10時を迎えようとしているこの時間に、そんなことのためだけにうちの近くにいるなんて。



「ねぇ、ほんとは何かあったんじゃないの? っていうか、いつもなら普通にうちにくるのに、何で今日は公園に? 今さら、夜だからって遠慮するような間柄でもないでしょ?」

「まぁ、それはそうなんだけどさぁ」


追及すると、結衣は急に歯切れが悪くなった。

どうやら本当に何かあったらしい。



「わかった。じゃあ、とにかく今は、何も聞かずにそこに行くから、ちょっと待ってて」


ため息混じりにそれだけ言い、電話を切る。


まさか翔太くんと別れたとかじゃないと思うけど。

何だか嫌な予感がしたが、放っとくわけにもいかず、私はコートを羽織って玄関を出た。



アパートから出て、道路を挟んだ向かいが、公園だ。

冬の夜は身震いするほどの寒さだが、そんなことは言っていられないため、私は結衣のために駆け出した。



「結衣ー!」


声を上げると、奥のベンチのところに、結衣と、そしてなぜか翔太くんもいた。

ぽつんと侘しく照らされる街灯の下に、ふたりは何とも言えない顔で立っている。


やっぱり、数学のノートはまったく関係なさそうだけど。