心配。

そう言われては、無下にもできないのだけれど。



「ありがとう、結衣。でもだからって、圭吾と会うつもりはないからね」

「会ってみたら、何かが変わるかもしれないよ?」


確かに、それはそうなのかもしれない。

けれど、物事は、いつもいい方に変わるとは限らないから。


あの日、私のまわりの世界が一夜にして一変したように。



「しっかし、世の中は狭いよねぇ。誰も知らない隣町に引っ越したはずだったのに、4年経って、高校の友達のカレシのバイト仲間? そんな偶然、あるんだねぇ」

「運命ってやつかもよ? 今はともかく、昔は圭吾くんのこと好きだったわけでしょ?」

「バカじゃん。子供の頃の話だよ。そんな気持ちも、もう忘れたし」

「どうだかねぇ」


ケタケタと笑う結衣の声のあと、非常階段にチャイムが鳴り響いた。

どうやら1時間目が終わったらしい。



「行くよ、結衣。こんなつまらない昔話、もういいでしょ」


言って、私は立ち上がる。

結衣はため息を吐いたが、今度はもう、何も言わなかった。