この男、危険人物につき取扱注意!


ラビアンルーの名前を出した時、ケーキをカットしていた坂下の手が一瞬止まったのを、千夏は見逃しては居なかった。

「いいえ。私がパティシエだなんて…」

「そうですか…私の勘違いでしたか?」

「…でも、どうしてそう思われたんですか?」

今日、副社長室で坂下と会った時、坂下から甘い香りを感じた事を千夏は話して聞かせた。

「…それは、私がケーキを運んで来たからでは?」

(それは、苦し過ぎるでしょ?
ケーキを運んだくらいで、香りが移るわけないじゃない)

「いいえ。
その香りは、私を連れ去るエレベーターの中でも強く感じてました。多分、NE部の為にチー…社長に頼まれて急遽ケーキを作っていたからでは?
違いましたか?」

何も答えない坂下の代わりに、今度は木ノ下へ話を振った。

「チーフ、私に嘘は嫌いだと言いましたよね?」

千夏から向けられる真っ直ぐな眼差しに、木ノ下も嘘はつけれないと観念した様だった。

「…ああ。
フー…うさぎの言う通り、坂下はラビアンルーのパティシエだ。
だが、この事は組の中でも、まだ、秦しか知らない。
今は事情があって、知られるわけにはいかないんだ。
だから、うさぎも誰にも言わないで欲しい」

(ヤクザの営んでる店…資金源…)

「でも…」

(ヤクザだって生活していかなきゃいけない事は分かってる。でも…それが…)

「うさぎが言いたい事は分かる…そこで、うさぎに相談がある」

木ノ下がそう言ったところで、坂下は “失礼します” と部屋を出て行った。

(相談って…なんだろう?)

「食べながらで良いから聞いてくれ…」と言って木ノ下は話し出したが、その相談と言う話は千夏が思いもしなかった話しだった。

「な、なんで⁉︎」

大きな声を出す千夏の口を、木ノ下は慌てて手で塞いだ。

「んっぐ…じで!」

「絶対大きな声を出すなよ?」と言う木ノ下に千夏は頷いて見せると、木ノ下はゆっくり手を離してくれた。

(…フーもうビックリした)

木ノ下の話はこうだった。
木ノ下は、会社の事や自分の未来の事を考え組を解散したいが、父親である組長は組を解散させるつもりはなく、組を解散させる為には木ノ下が組を継いで自ら組を解散させるしかないと言う話しだった。
そして、解散後の組員の生活を心配し各々にあった生活の基盤作りを始めてるところだとも話した。
その手初めが、側近の坂下と秦の事だったと話した。
だが、組を継ぐには結婚が条件となっていて、結婚相手の居ない木ノ下は、相手に千夏を選んだと言うのだ。