表で担がれたまま連れてこられた為、履いたままになっていた靴を慌てて脱ぎ、行き場のない靴を千夏は両手で持った。
「す、すいません…」
(なんで私が謝らなきゃいけないのよ⁉︎
私が悪い訳じゃ無いのに!)
「お嬢さん、悪い事は言わねぇ。そいつの事は忘れて、カタギの世界に戻った方が良い」
「あっ、いえ私は…」
千夏が事情を説明しようとしたのを遮る様に、木ノ下は千夏の肩を抱き、自分の方へと引き寄せた。
(え?もぅナニ?
私が説明しようとしてたのに!)
「結婚して組を継ぐなら、好きにして良いって言いましたよね?
だったら、好きにさせてろらいますよ?」
「好きにして良いっとは言ったが、カタギには手を出すなって、教えて来たつもりだが?」
「あなたがそれを言いますか?」
「…………」
木ノ下の言葉に、組長は苦虫を噛みつぶした様な顔をした。
(え?…なになに?…なんか複雑な話…?)
「お嬢さん、極道ってモノをどれだけ知ってるんだい?
おめぇさん、本当に極道の嫁になる覚悟はあるのかい?」
「…あ、いえ…私は何も… (嫁になるつもりなんて微塵も)無いです(から)!」
嫁になる気は無いと思っていても、じゃ、“ノコノコ組長宅迄なにしに来た?”と、聞かれたらと思うと、怖くて言葉が思う様に出てこなくて、怯えながらもやっとの思いで答えてみたが、相手には千夏の本意などは勿論伝わっておらず、組長の顔を仁王の様に歪めただけだった。
「こんな覚悟もねぇ娘を、よくもまぁ連れて来たもんだ⁉︎フッ…
お前にはまだ早かったんじゃねぇのか?…継ぐのわよ?」
「生い先短い奴になに言われたところで、どの道俺がこの組を継ぐのは確かなんだ。あんたは黙って大人しくしてて下さい。
あっ、暫く彼女も此処に俺と一緒に住みますんで?」
(えっ?)
木ノ下はそう言うと、再び千夏を抱き抱えた。

