レストランでの食事を済ませると再び車に乗せられた千夏は、今度は何処へ連れて行かられるかと不安でいっぱいだった。
「今度はどこに行くんですか⁉︎」
「俺の事何も知らないから結婚出来ないって、うさぎ言ったよな?」
「えっええ。
だって、付き合ってもいないのに結婚するなんて考えられ無いでしょ⁉︎」
「じゃ、教えてやるよ!俺の全てを」
木ノ下に全てを教えてやると言われてから、車が走る事1時間。
次第に住宅街に入り、長く続く塀を横目に走ってると思ったら、大きな日本家屋の門前で止まった。
「着いたぞ」
(今度はどこよ?)
車が止まると直ぐ外からドアが開けられ、千夏は心配しながらも木ノ下に続いて降りようとしたら、立派な門横には組の名が書かれた大きな看板が千夏の目に飛び込んで来た。
それは、“ここは極道の屋敷”だと強調いていた。
(えっぇぇ‼︎)
「ちょっちょっとチーフ待って!
な…何ですか…これは…」
「ん?俺の実家だ」
(実家…?実家って…ヤクザの…
無理!無理無理!
こんな所に一歩でも踏み入れたら、生きて帰れる保証なんてない!絶対降りないんだから!)
「私、このまま帰らせて頂きます!」
「アホ!これからが本題なんだから、降りてもらわないと困るんだよ!」
木ノ下に引き摺り下ろされ千夏を黒い影が覆った。
(え…)
気がつけば、千夏は大勢の男達に囲まれていた。
(っ⁉︎)
強面の男達による物々しい出迎えに、千夏の足はガクガクと震え、側の木ノ下の腕を掴みやっとの思いで立っていた。
「お帰りなさい若頭!」
(な、なんなのこれ…)
「若頭、こちらのお嬢さんは?」
「ん?ああ、俺の嫁になる予定の女だ」
(はぁ⁉︎)
「ち、違います!
会社の…会社のただの部下です!」
「そうですか…
やっと…やっと嫁貰う気になってくれましたか…
良かった!」と言って木ノ下の言葉に喜び涙する者もいた。
「おい、早くおやっさんに知らせろ!」
「ち、違いますって!」
(ちょっと人の話聞きなさいよ!
っ全然聞いてないよ…)
若頭である木ノ下が嫁を連れて来たとあって、組員が大喜びし祝いの準備だと騒ぎ出した為、千夏の否定の声など届いてはいなかったのだ。
「ちょっとチーフ、これどう言うつもりですか⁉︎」
この時、木ノ下の腕を掴む千夏の手に力が入った。
「こんな冗談に付き合ってられません!
私、帰ります!」
「俺は冗談は言わないと、何度言ったらわかるんだ?」
(冗談だろうと無かろうと、こんなのは無理!)
なんとかして逃げようと、千夏は掴んでいた腕を離し木ノ下の顔をめがけて拳を振り上げ、そして足蹴りをした。
千夏の拳は木ノ下に当たりはしなかったが、蹴りは木ノ下の太腿に当たった。
「痛ってぇ…」
(ふん!ざまーみろ!)
たが、千夏は逃げる事は出来ず木ノ下に羽交い締めにされ、そして大きな門構えにとても表札とは言い難い大きな看板を目の当たりする事となった。
(嘘っ…)
「ダメ…ダメダメ!チーフ離して!私帰る!お願いだから帰らせて!」
(この門をくぐったら、もう逃げれない)
「離して!私帰る‼︎」
足をバタつかせる千夏を、肩に担ぎ上げると木ノ下はそのまま屋敷の中へ入って行った。

