「じゃ、このお店は…?」と聞く千夏に、
「ここのオーナーは若だから…
俺が不合格なら…他の誰かに任せるだけだろ…?
別に俺はそれでも良いけど…」と秦は答え。
“それでも良い”と言いながらも、秦の表情は少し寂しそうに千夏には見えた。
(…え?
もし、不合格になったら…秦さんはどうするの?
料理人にならないの?
どうしよう?
80点って合格点じゃ無かった?
もしかして…
もう秦さんの料理は食べれなくなる?
そんな事になったら…私…どうしよう)
「チーフ…」
「心配しなくても、うさぎが合格と言って、気に入ったと言うなら、俺は必ずオープンさせる」
「若っ!」
秦は異議を唱えるかの様に叫んだ。
「合格!合格です!
勿論、合格ですよ!
秦さん良かったですね?」
この時、本当の秦の思いを知らない千夏は、ひとり嬉しそうにはしゃいでいた。
(こんな素敵なお店、オープンさせないなんて絶対ダメだよ!
秦さんの料理が食べれなくなるなんて、絶対だめ。
お母さん達も連れて来たいし!)
「秦さん、早速予約って出来ますか?
家族にも秦さんの料理、食べさせてあげたいです!」
「予約は無理!」
「えー!
私が80点って言ったから、意地悪してるんですか⁉︎
酷い!」
千夏は、“酷い横暴”だと、何度も秦に叫んだ。
「あーうるせぇー!だからガキは嫌いなんだ!
こんな色気も無いガキの何処が良いんだか?」
と秦は千夏に向けて言った。
(ガキ?…私がガキですって⁉︎)
「秦!」
その時秦を諫めたのは坂下だった。
「ハイハイ…
予約が無理なのはアンタに意地悪してるんじゃ無くて、この店は俺の趣味の延長線にあって、俺の本業は別に有るんだよ!」
(え?本業…?
ヤクザって言っても、ちゃんと仕事はしてるんだ?)
「だから、いつ店オープンするか分かんないの!
分かった?」
「本業ってなんですか?」
「うるせぇなぁ…盾!」
(鉄板…?そんな職業聞いた事ない。
鉄鋼関係かな?)
「そんな仕事辞めて、料理人になった方が良いですよ?絶対!」
「うるせぇー‼︎
俺は鉄板にプライド持ってんだ!
アンタにとやかく言われる筋合いじゃねぇだよ‼︎」
秦の機嫌が落ち着いたかと思ったら、またしても千夏の一言が余程頭にきた様で、声を荒げ千夏を驚かせた。
「す、すいません…じゃ…まだオープンさせないんですか?」
「そう言う事だ!」
(勿体ない…
腕もあって、お店もこんなに素敵なのに…)

