「80点だっ⁉︎」
点数を聞いて怒りを露わにする秦に、最後まで話を聞けと言ったのは、木ノ下だった。
木ノ下に言われては、黙って聞くしかないと思った秦は、コック帽を握りしめながらも、さっさと話せと千夏を急かした。
「…秦さんのお料理は…目、鼻、舌、どれも楽しませてくれて、三つ星レストランなんて目じゃないくらい美味しかったです。
ただ…」
「ただなんだよっ⁉︎」
「…寒かったです!」
「は?」
秦だけが千夏の言葉に驚きを見せて居た。
「っ巫山戯るなっ‼︎
寒かったから80点だぁ⁉︎」
評価に納得のいかない秦は、顔を歪め、千夏の胸ぐらを掴み拳を振り上げ今にも殴ろうとした。
だが、千夏は動じる様子も見せず、ゆっくり立ち上がりると秦と真っ直ぐ向き合ったのだ。
「秦さん、私の着てるシャツ触っても分かりませんか?」
「え?」
この日の千夏は、サテン素材の袖の無いブラウスを着ており、その上、木ノ下によって無理やり連れて来られた為、上着を会社に置いて来ていたのだ。
「今日は40度近くあって、とても暑い日でしたよね?
だから、スーツ姿のチー…社長の事を思って、店内の冷房を効かせてたんだと思いますが、冷え性の多い女性にとって、こんなに店内が冷えていては…
お料理を愉しむ事が出来ないと思うんです。
ヴィシソワーズや冷製パスタなどの冷たいお料理も多かったですし…
ちょっと体が冷えてしまって…
途中からお料理を楽しむ気分じゃなくなりました。
せめて“寒くない”かの声を掛けてくれるか、それか、膝掛けを用意しておいてくれたらって思います」
「夏に冷房効かせて何が悪い⁉︎
俺は、若が気持ちよく食事してくれればそれで良いんだ‼︎」
(若…?って事は、秦さんも組の人なんだ…
そんな気はしてたんだけど…
そっか…)

