千夏は溢れる涙と鼻水を吹きながら、木ノ下に電話の内容を話し始めた。
「坂本がどうした?」
「しょ、衝突…ズッ…じ、事故に遭って…ズッズズ」
「それで、坂本は⁉︎」
「足首の靭帯損傷で…」
「…?…う」
「右手首の捻挫と…」
「ざっ」
「…こ、腰の打撲で暫く入院…デス?」
「ぎ…うさぎっ‼︎」
木ノ下の大声に溢れていた涙もひっこみ、千夏は怪訝な顔を見せた。
(え?なんで、私が怒られるの?)
「な、なんですか?」
「…坂本は何とぶつかったんだ⁉︎」
「え?自転車ですよ?」
この千夏の言葉に、多くの溜息が聞こえて来た。
「はぁ…お前な…衝突事故って…からてっきり…」
木ノ下は溜息混じりにホッとした顔を見せると、千夏をそのまま抱え上げたのだ。
「ちょ、ちょっとナニすんのよっ⁉︎
ヤダッ下ろして!」
(ぁ…嶋田君…)
千夏は隣の嶋田をみると、嶋田は手を握りしめ顔を歪めていた、そんな嶋田から強い嫉妬心を感じた千夏は、嶋田の為にも早く下ろして欲しいと手足をバタつかせ、木ノ下の胸を叩いた。
「煩い暴れるな!
お前はこのまま帰るんだ!」
「ナニ勝手な事言ってんの⁉︎
まだ仕事が有るんだから!
早く下ろして、チーフ!」
「おい、誰かうさぎの代わりに残れる者いるか?」
木ノ下の問いにいち早く返事をしたのは、嶋田だった。
「僕が小野田さんの代わりに残ります。だから…」
(嶋田君…チーフのお願いだからって…
やっぱりダメ!
嶋田君にこんな思いさせちゃダメだよ…
ただでさえつらい恋なのに…)
「チーフ、やっぱり下ろして下さい!
坂本君のご家族にも連絡しないと!」
「連絡なら他の者でも出来る!
あっそうだ、皆んなに社長から差し入れだそうだ」
木ノ下は、連れて来た男に目配せをすると、男は持っていた箱を近くのデスクに置き「社長からです。皆さんでどうぞ」と言って箱の蓋を開けた。
それは、千夏がさっき食べ損なったラビアンルーのケーキだった。
『ちょっと、これ、あのラビアンルーのケーキじゃない?』
(え?)
『社長もやってくれるわね?
こんな物食べさせられたら、仕事頑張らなきゃね?』
『ですね!』
『チーフ、1週間シフト変更勝手にしておくので、小野田さん休ませて良いですよ?』
木ノ下の背後から聞こえて来る女性陣の声に、木ノ下は振り返ることも無く「頼んむ!」と答えた。

