どんなに思い悩んで居ようとも、仕事は待ってくれない様で、千夏のデスクの電話は鳴り響いていた。
「もぅ先輩!電話取ってください!」
伊藤美咲の怒りにも近い叫びに、我に返った千夏は “ゴメン” と言ってデスクの受話器を取った。
「はい、小野田です」
『坂本が事故に遭って…いま病院で…』
金沢へ1ヶ月間の密着取材に行っている藤井からの電話で、同行していたカメラマンの坂本が事故に遭ったと連絡が入ったのだ。
ガッタン!
千夏が立ち上がった勢いで座っていた椅子は倒れ、同僚達の視線を集めた。
「えっ事故⁉︎…っ助かるの⁉︎」
千夏の大きな声に、部署内の空気は一瞬で張り詰め、鳴り響く電話音も千夏にはサイレントとなり、同僚達の動きも止まってしまった。
そして、千夏の次の言葉を彼等は心配そうに固唾をのんで待っていた。
そんな緊迫感が漂っているところへ、木ノ下がドアを開け部外者をひとり連れて入って来た。
だが、直ぐにただならぬ空気を感じとった木ノ下は、一人電話をしてる千夏へと視線を移し「どうした⁉︎」と叫んだ。
「…そう…うん…分かった…
ご家族へは…そう…私から連絡する。
藤井さんも疲れてるでしょ…少し休んで…」
千夏が俯き加減になり、声もだんだん小さくなるのを見た同僚達は、ざわつき始めていた。
そして、静かに受話器を置く千夏の顔色は青ざめており、全ての者が息をのんだ。
「おい!」
誰も声をかけない中、心配して声を掛けた木ノ下の顔を見て、千夏はポロポロと涙を溢した。
そんな千夏の姿に、同僚達も嘆き惜しみ始めた。
だが、木ノ下だけは千夏の元へと駆け寄り千夏を抱きしめていた。
(…え…?)
バッシン!
「イッてぇーな!」
「ナニするんですか⁉︎」
突然抱きしめられ、驚いた千夏は反射的に木ノ下の頬を叩いたのだ。
すると部署内の全ての視線は二人に注がれ、再び静寂に包まれた。

