(いきなり婚姻届なんて出すか⁉︎
普通‼︎
ホント馬鹿じゃないの⁉︎
“サインしろ” だなんて…上から目線のプロポーズ?
あり得ないでしょ⁉︎)
仕事に戻ったものの千夏の怒りは未だ収まらず、タイピングの打ち方にもそれは表れていた。
「で、受けなかったんですか?」
「え? 何か言った?」
千夏は手を休め、隣の嶋田へと顔を向けた。
「プロポーズされたんですよね?」
「な、なんでその事、嶋田君が知ってるのっ?」
「小野田さん、独り言言ってました」
動揺を隠せない千夏は、キョロキョロと辺りを見回した。
すると嶋田は「大丈夫ですよ?他の人に聞こえるほどの声じゃなかったので」と言って微笑んだ。
(独り言って…えっ!声に出してたって事?)
「…独り言って…どこまで…」
「“ いきなり婚姻届なんて出すか?
馬鹿じゃないの?
上から目線のプロポーズ ” が、あり得ないとか?」
頭の中で呟いていたつもりが、実際には口に出していたと知った千夏は、思わず頭を抱えた。
(…ま、マジか…全部じゃん…?
でも、相手が誰かは口にしてない筈!)
「…あの…嶋田君この事は誰にも…」
「ええ、言いませんよ?
チーフが誰にプロポーズしようが、興味ないんで」
「な、なんで相手がチーフって…?」
(やっぱり口走ってたのかな…?)
「やっぱりチーフでしたか?」
「えっ?」
「小野田さんは、相手がチーフだとは言ってませんでしたよ?」
「え?じゃ、なんで?」
「僕が知る限り、あなたを女性として見てる人はそう居ないですからね?」
(そんなの言われなくても分かってるし!)
「女性らしく無くて悪かったわね⁉︎
…こう言うところが可愛くないんだろうけど…ね?」と言って千夏は苦笑した。
「まぁ、無理しなくても、ありのままで良いんじゃ無いですか?
チーフもそんな貴女を好きになったんでしょ?」
嶋田の “ 好きになったんでしょ? ” と言う言葉に、千夏は体を嶋田へと向きを変えた。

