「…チーフ…冗談には…やって良い事と…どんな理由があっても…絶対に…やってはいけない…事が有ります。
女性にとって…これほど…侮辱を感じる事は有りません!」
(いくら…私が結婚したがっていたからって…
こんな大事な事、冗談で言うなんて酷い!
チーフがそんな人だなんて思わなかった…
厄介な仕事を押し付けるのも、私を信頼してくれてるからだと思って、周りから憎まれようと頑張って来たのに…
まさか…こんな仕打ちされるなんて…)
千夏は怒りを抑えながらも、一言一言、言葉を選び話をした。だが、木ノ下からは悪びれる様子も伺えず、千夏はただただ怒りを抑えていた。
だが、そんな千夏の思いなど気にする事無く、木ノ下は真面目に話してると主張する。
「冗談は言ってない。俺は至って真面目に話してる」
(真面目に話してる?…これが?
何処の世界に、恋人でも無い相手にいきなりサインしろって婚姻届を出すのよ⁉︎)
「…チーフ、いえ、社長‼︎」
「今まで通りチーフでいいって言ったろ?」
「いいえ、
貴方はこの会社の社長なんですよ!」(さっき知ったけど)
「その社長が、こんな悪ふざけして良いと思ってるんですか⁉︎
Ribbonを開発した社長を…
私をここまで育ててくれたチーフを尊敬してました。
でも、今は貴方を軽蔑します!
付き合ってもない相手に、婚姻届にサインしろだなんて!」
(付き合ってたとしても、こんな命令口調のプロポーズ…どこの女が喜ぶ?)
「じゃ、これから付き合え…ば?」
(じゃぁあ⁉︎じゃってなに⁉︎)
「私、仕事が有りますので失礼します!」
既に千夏の怒りは頂点に達しており、木ノ下の言葉を遮る様にして千夏は席を立ち、部屋を出ると同時に重厚感あるドアを蹴っ飛ばしていた。
(っイッタあぁー
もう! 今日は災厄!
付き合っても無い相手によく言えるわよ!
私が枯れる前にって、言ってたのを面白がって…
馬鹿にするにも程がある!
この私が、冗談でも言って欲しいと思ってるとでも?
あんなクソみたいなプロポーズいらねぇ!
っザケンジャないわよ⁉︎
豆腐の角に頭ぶつけて死ね!)
怒りの収まらぬまま、痛めた足をひきづりながら、千夏は部署へと戻って来た。
バッタン‼︎
「あ、せん…」
千夏の処分を心配していた伊藤美咲は、やっと戻って来たかと声を掛けようとしたが、勢いよく扉を閉める千夏の様子を見て何かを察した伊藤美咲は、余計なとばっちりは受けまいと、出かけた言葉を飲み込み仕事に専念した。
(ナニ考えてるのよ⁉︎)

