この木ノ下は、なかなかのイケメンのわりに女の影は全くなく、群がって来る女性陣を冷たくあしらい、全く寄せ付け様とはしなかった。
それでも近づく者には、“俺の前から消えろ”と、言わんばかりに眉間にシワを寄せ威圧感漂わせるから、チームの女性陣からも恐れられている。
その為、木ノ下の事は女嫌いか結婚しない男だと、千夏を始め女性陣は皆思っていたのだ。
その男が結婚すると言うのだから、千夏にとって天地がひっくり返る程の出来事だった。
女嫌いだと思われて居た男に、結婚したいと迄思わせた女性がどんな女性なのか、木ノ下を側で見てきた千夏にとって今年一番の大ニュースであった。
(早速チームを挙げてお祝いしよう!
これで少しは社内も落ち着くでしょ?
さっきは恋人は居ないって言ったくせに!
多分照れくさかったんだろうな…
でも、どんな人だろう…?あっ!)
パンッ!
千夏は右手で、自分の太腿辺りを叩いた。
「分かった!
お相手は、以前社に訪ねて来られた、どこやらのお嬢様!
名前は…差桜良朱音さん!
結婚のお相手はあの方ですか?」
(だからさっき、あんなに慌てたんだ?
そっか…あの人か…?
綺麗な人だったもんなぁ…
やっとこの人も、人間らしい感情に目覚めたか?
良かった良かった!
これで少しは丸くなってくれると、私としては助かるのだけど…?
…でも…それはそれで少し寂しい気もするなぁ…)
「でも、なんで私がチーフ達の保証人にならなきゃいけないんですか?
普通こう言ったものは、親族か友人、もしくは上司ですよね?
あー誰にも頼めなかったんですね?」
(可哀想に…)
「良かったら、篠原教授に私からもう一度お願いしましょうか?」
篠原教授とは、千夏に木ノ下を紹介してくれた、千夏の恩師である。
その篠原教授にも保証人を頼む事が出来なかったから、自分のところに頼みに来たと千夏は思ったのだ。
普段、能面の様にあまり表情を変えない木ノ下だが、千夏の突拍子もない発言に、またもや木ノ下は眉間にシワを寄せ、今度は口をポカーンと開けた。
そして、
「証人じゃなくて、こっちだ!」っと言って、人差し指で婚姻届を叩き示した。
トントン!
木ノ下が指で叩き示したのは、証人欄ではなく妻になる者が記入する欄だった。
(はぁぁぁ⁉︎ 余計意味わかんない‼︎)

