何の説明もなく威圧感剥き出しにする木ノ下に、千夏は怒りさえ覚え始めていた。
(良いからって…ホントこの人なんなの⁉︎
私…ここになにしに呼ばれたの?)
千夏が木ノ下の下で働き出して5年程になるが、今迄これ程までのプライベート事を頼まれた事は無かった。その為、自分がこれにサインしなくてはいけない理由が全くわからなかった。
(なぜ私なの? もっと他にいるでしょう?
もっと相応しい人が?
相手が社長だろうと、ダメなものはダメって言わなきゃね!)
千夏は姿勢を正し、いまだ威圧感漂う木ノ下に怯える事なく、真っ直ぐ木ノ下と向き合った。
「……他人の保証人にならない事と…
他人から施しを受けない!と言うのが、父の遺言なんで出来かねます!」
千夏は、木ノ下の申し入れをキッパリと断ったのだ。
千夏の言葉に、普段あまり表情を変えない木ノ下だが、この時ばかりは間の抜けた顔を見せた。
「は? お前の父親生きてるだろ?」
「ええ。 生きてます!
今も現役で全国飛び回ってます!」と、千夏は木ノ下の目を見てハッキリと答えた。
「じゃ、遺言じゃないだろ?」
(確かに遺言とは違う。でも…)
「私が言いたいのは、訳のわからない物にはサイン出来ないって事です!
婚姻の証人って事は、婚姻の保証人っと一緒じゃ無いですか?」
借金の借用書類の保証人では無く、婚姻届の証人なのだから特に問題無い事は千夏も分かっていた。
それでも、いくら婚姻届とはいえ、証人を頼まれるほど木ノ下と親しい関係でもく、なにより、他人の人生に関われるほど人生経験は無いと、千夏は思っているのだ。
そう思いながらも、妻の欄に署名のない事を不思議に思った千夏は、
「ところで、誰と結婚するんですか?」と、木ノ下に質問した。

