千夏は処分を聞くべく、木ノ下に言われるままソファーに座ると、部屋の奥のもう一つのドアから強面の男が出て来て、二人の前に苺のショートケーキとコーヒーを置いた。

(誰…?
こんな怖い顔の人、社内で見た事ないよ?
でも、なんで…コーヒーとケーキ?
それにしてもいい香り…どこの豆だろう?
苺も艶々して…私に食べてって言ってるよ…
でも、いまはダメ。
今は仕事中だし…
なにより、ここには処分を受けに来たんだから!)

「あの…これは?」

「ケーキだ!」

(そんなもん、見りゃわかるわ!
今から処刑宣告する相手になんでケーキなんかもてなすのよ?)

木ノ下が目配せをすると、ケーキを運んで来た男は入って来たドアの向こうへと消えて行った。

「今人気のラビアンルーのケーキだ。
うさぎ、食って良いぞ?」

(ラビアンルーって…
今若い女性の間で一番人気の店で、朝から並ばないと買えないとか…?
女性陣が騒いでるのを聞いた事ある)

「これどうしたんですか?
まさか、並んで買って来たんじゃないですよね?」

千夏は、既に食べ始めてる木ノ下に疑いの眼差しを向けた。

「…………」

(嘘でしょう…
いつも居なくなるのは、こんな理由だったなんて言わないでよ?)

「チー…社長!」

「今まで通りチーフで良いって言っただろ?
まだ暫くは身を隠していたいんだ」

(身を隠していたいって意味わかんないけど、まぁそっちが良いなら?
急に社長だって知らさせて、私も戸惑ってたからね?)

「じゃ…じゃ、チーフと呼ばせていただきますけど、仕事サボってまでこんな物の為に、並びに行かないで下さい!」

「好きになったら仕方ないだろ?」

(い、いくらケーキが好きだからって…
この男はッ…
社長なら何やっても良いのか⁉︎
こんな時に…)

「皆んな仕事してるんですよ!」

(ケーキ食べる時まで眉間にシワ寄せて…
あー苺が可哀想…)