小野田千夏は、只今、死刑宣告を受けるべく上層階へと向かうエレベーターの中に居る。
ひとりで上層階へ向かうのは初めての事で、言うまでもなく千夏は凄く居心地の悪さを感じている。


(あー面接の時より緊張する…
私…やっぱり解雇されるのかなぁ…
平社員が副社長に対して激昂するなんて、あり得ないし聞いた事ないよね…
それも、大勢の社員の前でって…
マジ前代未聞だよね…
我ながらこんなにも馬鹿だったんだって思うよ…
神様仏様…
こんな馬鹿な私ですが、どうぞお守り下さい…ハァ…)


エレベーターが上昇する間中、千夏は何度と溜息を漏らし、そして更に大きな溜息を漏らすと同時に、エレベーターは到着を知らせる軽快な音を鳴らした。


「着いちゃったよ…行くしかないかぁ…ハァ…」


絞首刑台へと向かう千夏の足は重く、まるで大きな鉄球を鎖で繋げられてる様で、その足を引きづりながら一歩一歩副社長室へと進む。
なんとか副社長室前までやってくると、今度は鉛の様に重たい拳を上げ、意を決して目の前の重厚感あるそのドアをノックした。


『どうぞ』


部屋の中からの返事を聞いて、部署のドアとは全く違う重いドアを開けた。

「先程は大変申し訳有りませんでした!」と千夏は謝罪の言葉と同時に勢いよく頭を下げた。

そして、頭を下げたまま「どんな処分もお受けしますと言いたいのですが…何卒解雇だけは御許し頂けないでしょうか?」と懇願した。

千夏は頭がハゲそうなくらいの視線を感じながらも、上げるタイミングがわからなく、そのまま副社長からの一言を待ち下げ続けていた。


(どうだ…? 無理?ダメ?
ねぇ早くなんとか言ってよ!
頭あげて良い? まだ、だめ? ねぇってば!)