パニクってる千夏は、勢いよく木ノ下のデスクを開け、木ノ下のカードキーを探した。
千夏がカードキーを探してると、伊藤美咲が慌ててどうしたのかと尋ねて来た。

「ちょ、ちょっと副社長に呼ばれて、う、上に行くのにカードキーが無いと行けないから、チーフの借りようと思って…だ、だから…」

「あーさっき副社長をアゴで使ってましたもんね?」伊藤美咲は腕を組み、これから千夏に起こる事を見通したかの様に頷いていた。

(別にアゴで使ったつもりはないけど…
確かに無意識にしろ副社長に指示出したのは私だ。
それを顎で使ったと言うなら、使ったのだろう…
でも、あの時は…仕方なかった事だと思う
だって…社長であるチーフが助けてくれなかったんだもん!)

「しかし、さっきの千夏さんはいつもに増して凄かったですよね?」

「そんなに…?」

「凄いってもんじゃないですよ!
頭にツノが見えてましたから!
ねぇ、嶋田さん?」

美咲は無言で仕事する嶋田に同意を求めたが、我関せずといった様で、嶋田は手を休める事はなかった。

だが、「副社長待たせても良いんですか?」とだけ忠告してくれた。

(ヤバイ!)

慌てて副社長室へ向かう千夏へ伊藤美咲がエールを送っていた。

「先輩、何があっても皆んな先輩の味方ですから!
先輩がクビになったら、私も辞めます!」

「え?」

「あーやっぱり辞めるのは嘘です。
生活があるんで…」

(嘘かい!)

「あ、でも…抗議くらいはしますからね?
頑張って来た下さい!」

(ありがとう…)

「小野田千夏行ってまいります!」


千夏が額に右手を当て、勇しく出て行くその背中には伊藤美咲以外からも『頑張れ!』『骨は拾ってやるからな?』と多くの励ましの声が掛けられていた。


(私、皆んなから嫌われてるって思ってたけど…
もしかして違ったのかな…)