「あんた篠原教授が年寄りだからって、なにか売りつけに来たんじゃないでしょうね⁉︎
そんな事なら私が許さないんだからね⁉︎
私は篠原教授を守る為に、毎日こうして用心棒として来てるんだから!」


千夏は、教授の部屋へ置いてあった木刀を持ち、木刀の先を男の喉元方へと向け構えた。
それでも男は全く動じる事なく、それまでと変わらぬ姿勢のままソファーに座っていた。
だが、男のあまりの眼光の鋭さに、千夏の方は一歩も動けずにいた。


うっ…
まったくスキが無い…この男は何者なの…?


千夏の様子を伺っていた男は徐に立ち上がり、袖口に隠し持っていた扇子を出すと、顔色一つ変えず一瞬にして木刀を叩き落とすと、千夏の眉間の前で扇子を止めた。


えっ!? 
嘘っ…
この私が…扇子一本で叩き落とされた…


千夏は剣道三段で、その辺りのものには負けないと自負していた。


「ガキ、まだやるか?」


ガキッ ??


何処の誰とも知れない男にガキとまで言われ腹を立てる千夏だが、そんな事より易々と木刀を叩き落とされた事の方が悔しく、千夏は下唇を噛み男を睨んでいた。


「だが、いくらやっても俺には勝てないぞ?
お前は優しすぎる。だから隙を与える」と、悔しがる千夏に向かって男は言った。


優しすぎるから隙を与える…?
どういう事…こんな男に優しさなんて…
なら、どうしたらもっと強くなれる…?


就職が上手くいかなくなって、千夏の剣には迷いが生じ大会では思うような試合運びが出来ずにいた。
毎日どんなに鍛錬を重ねても、どうしても結果を出す事が出来なかった。