部署内に鳴り響く取材班からの電話を、千夏が捌き始めると、伊藤美咲も自分のデスクに座り電話を取り始めた。


(え?)


驚いてる千夏に目もくれず、我先にと受話器を取っていた。


「美咲ちゃんデートは良いの?」

「デートならいつでも出来ますから大丈夫です!」

(あんなに涙して頼んでたのに…)

「今日、彼氏の誕生日なんでしょ?」


数ヶ月前から伊藤美咲が温泉宿やメンズグッズの雑誌を見ていた事を千夏は知っていた。
そして先月、美咲達の仲間内で盛り上がってるのを耳にしていたのだ。


「やっぱり、千夏さん知ってたんですね?」

「うん…ちょっと耳にしてた…
電話でも済んだのに飛んで来てくれてありがとう。
後は大丈夫だから、帰っていいよ?
彼、待ってるでしょ?」


千夏の言葉に美咲は首を振り、旅行は中止になったと言った。
そして、本当は電話で知らせようとしたが、彼氏に怒られたから知らせに来たと美咲は笑って話した。


「千夏さんの誕生日休暇代わって貰った事も、彼凄く怒ってて…
他人を犠牲にしてまで祝って欲しくないって…
会社に知らせに行かないなら、来年の誕生日のイタリア旅行の約束は無しにするって言い出すんですよ?
そんな事言われたら、知らせに来ない訳にいかないじゃないですか!」

(なんだ、彼氏に怒られたからか?
でも、素敵な彼なんだろうなぁ…羨ましい)

「千夏さん…本当にすいませんでした!」


立ち上がり頭を下げる美咲に、千夏は反省してるならいつもの100倍働けと言って笑った。
そして、取材班からの電話が落ち着いた頃、美咲は千夏の側に寄って来て腕を突っついた。

「あのイケメンさん達は誰ですか?」と聞く美咲に、兄達の存在を思い出させられた。

「ん?あっ‼︎忘れてた…」