伊藤美咲は飛び込んでくるなり、千夏へと駆け寄った。


「どうなってるんですか⁉︎」


何事かと話を聞くと、オリンピック種目のマラソンが行われないかもしれないと言うのだ。


「なにバカな事言ってるの?
目玉とも言えるマラソンが無くなるわけ無いでしょ?」

「でも、報道が流れてますよ?
本当のところは分からないけど、うちだけですよ⁉︎
これにふれてないの!」


伊藤美咲の話に、驚いた皆んなは慌てて他社のネットニュースやワンセグを使って確認を始めた。
すると、伊藤美咲の言う通り、東京での開催にIOCの一部から猛暑の中でのマラソンは危険を伴うのではないかと、危惧する声が上がっていると言う報道が流れていた。


(これが本当なら…大変な事になる。
でも、どうする?
取材班は皆んなアスリートに密着させてるから動かせないし…)

「柴田君、すぐ都庁に確認しに行って!
坂城さんは日本陸連に確認をお願いします!
千葉さんは、組織委員会に確認の電話を!いえ、組織委員長の周囲に探り入れに行って下さい!」


千夏は今いる全ての者に指示を出した。


(後は…)

「チー…」

千夏は再び木ノ下を見るが、いまだ協力する気配は無く、それどころか琢磨と信二にコーヒーを出していた。


(もう、なに考えてるのよ⁉︎
あの人があてにならないなら副社長しかいない)

「副社長、IOCの関係者にお知り合いは居ませんか?」

「元IOCだった人なら知ってるけど?
関さんって言ってね?
行きつけの居酒屋《みせ》で知り合ったんだよね。
そう言えば最近会って無いけど元気にしてるかな?」

「なに呑気な事言ってるんですか⁉︎
直ぐ連絡して、IOCに確認してもらって下さい!」

千夏がスタッフだけでなく、副社長にまで当たり前の様に指示してる姿を見ていた木ノ下は、それが余程面白かった様で腹を抱えて笑っていた。
そして、それを側で見ていた琢磨と信二は唖然としている。