突然、勢いよく開いたドアにもかかわらず、驚く様子も見せずまっすぐ千夏を見据える見覚えのない男に、千夏は一瞬たじろぎはしたが、直ぐに不審人物だと身を構えた。
それは、最近構内を人相の悪い部外者が彷徨いていると噂になっていたからだ。


「あんたっ誰っ⁉︎」

「お前こそ誰だ?」


眉ひとつ動かさず、そして千夏の問いにも答えない男は、既に機嫌の悪かった千夏に更なるイラつきの種を与えた。


「私が先に聞いてるのっ!」

他人(ひと)に名を聞くときは、先に名乗るものだ。
そんな事も、お前の親は教えてくれないのか?」


「はぁぁぁぁ⁉︎」

「ここはお前の部屋じゃないだろ。
ならば、お前と俺は同等の立場になる。
名を聞かれたからと言って、俺がお前に応える義務はない」

な…な、なにこの男!?
こんな怪しいヤツ、私が部屋から追い出してやる!

「あんたこの大学の人間じゃないでしょ!?
ここは篠原教授の部屋なの!
部外者は出入り禁止なんだから!
出て行きなさいよ!
早く帰れ!!」


篠原教授は、半年位前から何処か様子がおかしく、研究も全く進んで無い様子だった。
講義も全て准教授に代わっており、篠原教授は何か大事な事を抱え悩んでいるのではと、千夏は心配していた。
それは、決して誰にも言えない事だと千夏も感じていた。

その為、千夏は今迄一度も相談せずにいたのだ。


それなのに…
こんな怪しい奴、私が教授の側に近づけやしない!

「あんた何が目的で来たのさ⁉︎
事と次第によっては容赦しないんだから‼︎」


だが、千夏がどんなに声を荒げ言おうと、男は全く動じる事もなく、背筋を真っ直ぐ伸ばし千夏が入って来た時と同じ姿勢のままで居る。