そして今から5年前

当時大学生だった千夏は就職活動が上手く行っておらず、4度目の夏を迎え焦りと大きな敗北感に打ちひしがれていた。

4年にもなると大学へ出てくるものも少なく、単位の取れていない者以外は内定先の企業へ研修やインターンシップに行くか、卒業旅行の資金稼ぎの為にバイト三昧の者が多い。
千夏はというと、多くの者と同様に単位は勿論の事、卒論も既に終わり卒業式を迎えるだけだった。
ただ、皆んなと違ったのは就職希望でありながら一社も内定先が無い事だった。
その為、いつも暇つぶしに大学へ訪れては講義に顔を出していた。

この日は、前日のある出来事に家に居づらく、いつもより早く大学へ向かい学生課の事務員である佐藤の元へ顔を出しに向かった。

「…折角のお話だったんですけど…
佐藤さんには何とお詫びしたら良いのか…
本当にご迷惑をお掛けしました」

事務員の佐藤の紹介で受けた商社から内定を貰っていたのだが、千夏の知らないうちに兄達によって辞退していた事を佐藤に話し謝罪に来たのだ。

「辞退した事は先方から連絡受けてたから知ってたけど、まさかお兄さんがねぇ…?
でも、お兄さん達もあなたの事が余程心配なんでしょね?
たまに居るのよね?
娘を社会に出すのが心配で、花嫁修行だとか言って就職させない親が!
色々経験してこそ、良い大人になっていくと私は思うんだけど…?
まぁ、貴女みたいにお兄さんって言うのも、異例中の異例だけど? 
今回の事は、私の方で上手くやっとくから気にしなくて良いわ?
でも、そんなに溺愛されてちゃ…貴女も大変よね…?」

「…………」

佐藤の言葉に、返す言葉が見つからない千夏だった。

「辞退した事は篠原教授も知ってるから、教授に一度相談してみたら?」と、佐藤は千夏の肩に手を置いて言った。


何をどう相談すれば…


「…では…私…講義に出るのでこれで失礼します…」


その後、千夏は受ける必要のない講義に出て時間を潰し、そしていつもの様に篠原教授の部屋へと向かった。