会社(DOY)は、“ 働いたら遊べ ” を社訓に掲げているが、休日に遊ぶなんて考えられないくらい忙しい職場で、休みの日は溜まった疲れを癒す為、千夏はいつもただ寝て過ごしていた。
そんな日々を過ごす千夏は、半年前からサブチーフを任される事となり、今まで以上に仕事と雑用に追われる事となっていた。
その雑用のひとつが部署内のシフト調節と経費管理であり、毎週末に寄せられる多数のお願い事の処理である。


「先に言っときますけど、お金と男!
それから仕事《じかん》についての相談は受け付けませんよ!」

「えー」

えーじゃない!
お願い事なら私にじゃなくて、星か神様に向かって言ってよね⁉︎
いや、チーフに言えば良いじゃない!
どうせ、シフトの事なんだから!


いつも誰かが近寄ると、眉間にシワを寄せるチームのリーダーであり課長代理でもある木ノ下へ頼み難いからと、以前から頼み込んでくる彼女達に千夏もいい加減ウンザリしていた。そんなところに会社からチーフである木ノ下のサブに任命され、千夏は今まで以上に雑用が増えたうえ、部署内からのお願い事まで増えてしまったのだ。

毎週末、合コンだのデートだのと、千夏のもとへ誰彼やって来ていた。
そして、今日もいつもの様に同じチームの伊澤美咲が千夏の元へやって来たのだ。


サブは、あんた達の願い事を叶える為に居るんじゃないからね!
雑用ばかり押し付けられても、手当てなんて無いと同じなんだからね!
土日の夜勤はほぼ私で埋めてるのに、これ以上私にどうしろって言うのよ⁉︎


そんな千夏の思いなど知らずとばかりに、伊藤美咲は猫撫で声で勝手な事を言ってくるのだ。


「久しぶりのデートなんですぅ〜
私、千夏さんみたいに結婚諦めたくないんで、お願いしますぅ〜
だから…今日のシフト代わってくれませんかぁ〜」

はぁ⁉︎
結婚諦めた‥⁉︎
誰が⁉︎
誰がそんな事言ったのよ⁉︎
勝手に決めつけるんじゃないわよ⁉︎
出来る事なら、私だって結婚したいわよ‼︎
両親の様に互いを尊敬しあえる相手と、愛し合って結婚したい。
それが、私の小さい頃からの夢なんだから!
勝手な事言わないでよ‼︎
それに今日だけは、あんた達の我が儘なんて聞いてられないの!
今日だけは、絶対帰らないと殺されるかもしれないんだから…


両手を合わせ拝む伊藤美咲に、千夏はひとつ深呼吸して立ち上がった。
そして千夏は伊藤美咲へと向き直り、怒りを抑えながらも拳を握りしめていた。

「…フー…毎週毎週…巫山戯んじゃないわよ⁉︎
週末になると、早退したいだの休みを変えてくれだの勝手な事ばかり言って、いい加減にしてよ‼︎
皆んなが休んでる時に休めない事くらい、入社した時から分かってたでしょ⁉︎
そんなに、仕事より合コンやデートが大事なら、仕事なんて辞めたら⁉︎」

…ったく、中途半端な気持ちでやってんじゃ無いわよ!


今までに無い千夏の刺々しい物言いに、チーム内外そこに居た全ての者が驚いていた。
だが、そんな事などお構いなしと千夏は仕事を振って行く。

「富永!さっき頼んだ資料どうなってんの⁉︎」

「す、すいません…まだ探せ出せなくて…」

どんだけ時間使ってんだ⁉︎

「私達の仕事は一分一秒が命取りになるんだよ⁉︎
早く探して持って来て!」