「はぁ⁉︎
お前、アイツの話聞いて無かったのか?
“愛する妻子が居るって”って言ってたろ?」
「ええ…聞いてましたけど…
だって…坂下さんチーフ一筋だって言ってましたよ?
女にうつつを抜かしてる暇は無いってムキになって言ってましたし…」
「…それはだな…言葉の綾だ。
坂下は、俺の為なら命も投げ出す覚悟があるって言ったんだ」
「それは、いざと言うときには盾になって、チーフの命を守るって事ですよね?」
「そうだ。
彼奴も今の女房に出会うまでは、弱みになる様な特定の女は持たないって言ってたし、結婚もするつもり無かった筈だ。
いつ、命落とすか分からないからな…
それが、彼女に出会って気持ちが変わったって俺に頭下げに来たんだ…」
「結婚するのに…チーフに頭を下げないといけないんですか?」
「そう言う訳じゃ無いが…
俺はずっと、結婚する時はこの世界から足を洗えって言ってたからな…」
「え…」
「家族が増えれば悲しませる者も増える。
組長には俺から話してやるから、足を洗えって言ったんだ。
だが、彼奴首を振りやがった。
俺の側に居させてくれって…な!
ダメだと何度言っても聞いてくれず…
女房の妊娠を知った時も…
産まれて来た子供の顔を見ても、彼奴は絶対に首を縦に振らなかった…
俺にくれた命だからって!
ホント、バカヤローなんだ彼奴」
嬉しそうに話す春樹だが、千夏にはどこか哀しそうに見えた。

