菅原がシフトの話を持ち出した頃、通用口に立つ警備員の姿が千夏の目に入った。
「その話はチーフ…課長代理を交えて話しましょ?」
「いやだから…あなたに…」
「私、社員証持って来てないんで、入社証作って貰わないといけないんで、お先に失礼します!」
千夏は菅原を置き去りに走り出した。
「ちょっちょっと小野田さん待って!シフト…」
菅原の呼び止めに足を止める事なく、千夏はそのまま通用口へと全力で走り去った。
(何回その話すれば良いのよ⁉︎
シフトから外して欲しいなら、パート扱いになるって、チーフが話したでしょ⁉︎
私に頼んだところで、どうにか出来る話じゃないんだからね!)
「ハァハァハァ…すいません!」
「はい、どうされました?」
「仮の…ハァハァ…入社証…つくって貰えますか?」
「え⁉︎ 失くされたんですか?」
社員証を失くしたとなると、第三者の手に渡った時に悪用されるリスクが大きいため、各自責任を持って管理しなくてはならない。もし、紛失したとしても直ぐに再発行は出来ない為、警備室にて仮の入社証を作って貰う事になる。
その際も、身元確認及び保証人との再度の保証確認を得たうえで、上層部の許可が下りれば仮の入社証を作って貰えることになる。
なので、余程の事が無ければ直ぐには作って貰えない。
その為、警備員も渋い顔を見せ困っていた。
「いえ、ある事は有るんですけど、いま手元になくて…
買い物してたら、人手が足りないって聞いたものですから、急遽出社したんです」
「それはご苦労様です!
では中へ」
千夏の顔は良く知られて居た様で、身元確認されないまま警備室へと誘導された。
「もうお身体の具合は宜しいのですか?」
「え?」
「倒れられたとか…?」
(嘘…警備員さんの耳にまで…話が来るの?)
「…ええ。もう全然平気です。
ご心配お掛けしまして」
「くれぐれもお身体には気を付けて下さいね?」
「はい。有難うございます」
「では、副社長の許可が取れましたので、どうぞ。
お帰りなさいは、必ず返却をお願いします」
差し出された入社証をお礼を言って受け取ると、千夏は猛ダッシュで部署のある4階へと駆け上がった。

