この男、危険人物につき取扱注意!


千夏が店を出ると、運転手の高原は車の側に立ち何かを警戒するかの様に辺りを見渡していが、店から出て来る千夏に気づいた様で、周囲を気にしながら千夏へと近づいて来た。

「千夏さん、お一人ですか?若は?」

「大事な電話がはいった様で、もう暫く時間がかかるそうです」

「…そうですか…分かりました。では、千夏さんは車の中へ」と言う高原に千夏はお願いがあると言った。

「え?駅にですか?」

(昨日あれだけ騒いだんだから、組の人の中でも少なからず、この人だけは私達の関係を疑ってるはず…
今のうちに、なんとかしておいた方が後々良いはず)

「ええ。
高原さんも知っての通り、昨日無理やり連れて来られたじゃないですか?
だから着替えが少なくて…
だからと言って、家に取りに帰るわけにも…
家族には絶対反対されてますから…彼と結婚する事」

「で、駅まで乗せて行けと?
…まさか逃げるつもりではないですよね?」

「逃げるわけ無いでしょ!
婚姻届にサインまでしたのに!」

「…若はご存知なんですか?」

(チーフには何も伝えては無いけど、出歩いていけないとも言われてない。
だって、恋愛相手を見つけようとしてるのに、閉じこもって居てもね?)

「勿論!高原さんに送って貰えと…」

「…直接、若に聞いて来ます」

(え?今はきっとまずい)

「…私の事信用出来ないんですか?
やっぱり…高原さんも私の事認めて無いんですね?
私がチーフのお嫁さんになる事…
極道の妻になるって事がどんなに…
私がどんな思いで…覚悟したか…」

「………」

「そうですよね…分かりませんよね?」

一般の者がヤクザと関わり合いになるだけで嫌がるものを、求婚されたからと言って、簡単に覚悟を決められるもので無い事は高原も十分分かっていた。
だからこそ、高原は千夏に何も言い返せなかった。

「分かりました…彼に聞いて来て下さい!
でも、くれぐれも言葉を選んでくださいね!
とても厄介な電話だった様ですし、私の言葉を疑ったと彼が知ったら…」

「…分かりました。あなたを信じます。
乗って下さい。駅までお送りします」

(騙してごめんなさい…
でも、暫くこの身代わり婚を続けるなら、着替えが足りないのは事実だし、約束を反故にしてチーフの元から逃げるつもりは無いから…
ちゃんと帰って来ますから)