「少し見せて貰っても良いですか?」

「え?おトイレ…」

「トイレは後でいいので、少し店内の商品も見てみたいんですけど?」

「…どうぞ」

トイレに行きたいと別室を出て来たにもかかわらず、店内を見たいと言う千夏に、店長は怪訝な表情を見せた。
だが、そんな事など気にすることなく千夏は目の保養とばかりに店内の商品を見て回った。

「あ、これ可愛い…」(一十百千万十…っわ高っ!)

「宜しければお出ししましょうか?」

(ぅ…でも…見るだけならタダだもんね)

「良いですか?」

千夏がショーケースから取り出してもらったモノは、桜をモチーフにしたピアスだった。
店長はそれを“どうぞと言う様に、千夏へと差し出した。

(可愛い。でも、あいてないからな…
この機にあけようかなぁ)

千夏は耳たぶへと当てると、鏡越しに映る自分を見ていた。

(これくらいなら、仕事につけて行っても大丈夫だよね)

「そちら、ピンクダイヤを使ってるんですよ?」

「…ダイヤなんですね…?」

「ピンクダイヤの石言葉をご存知ですか?」

「いいえ」

「“永遠の絆・可憐・優美”と言われてます」

(絆・可憐・優美…)

「ピンクダイヤモンドの中にもピンクの種類がいくつかあります。
通常のピンク色が高評価ですが、少し紫色がかったパープリッシュピンクも美しくて人気が高く、通常のピンクより高価な場合もあります」

(そうなんだ)

「他にもブラウニッシュピンクとオレンジッシュピンクと言われるピンクダイヤモンド(もの)がありますが、このふたつのピンクと較べると、かなり評価は落ちます。
当店ではピンクダイヤモンドは、ピンクとパープリッシュピンクのみを採用しております」

店長はそう説明すると、鏡越しにピアスを見つめる千夏へ“さくらにぴったりな色だと思いませんか?”と微笑んだ。

「本当に綺麗ですよね」


「普段はイヤリングをおつけに?」

「ええ…アクセサリーはあまりつけない方なんですけど…」

「こちらはピアスのみになってますが、イヤリングにお直しする事も出来ますよ?
少し今とイメージは変わってしまいますが…」

(お直し…この金額にお直し代…か…
私にはやっぱり無理だわ…)

「ですよね…このままの方が素敵だと思います」

欲しくても自分にはとても買えないと諦め、千夏は寂しそうに微笑み店長へと返した。

「穴をあけてから…また、来ます」

「あっ、お部屋はそちらではなくこちらに…」

店を出ようと向かう千夏を店長が慌てて呼び止めた。

千夏は“急用を思い出したので帰ります”と言うと、時計へと目を向けた。


「彼には、この時間大事な仕事の電話がかかってくる事になってるので、もう暫く二人だけにしておいて貰えますか?」

「はい、畏まりました」

千夏は“お願いします”と頭を下げ店の外へと出た。