暫くして車が止まった所は、入り口に黒服姿の男性が立つ、女性なら誰もが憧れるかの有名ブランドのジュエリーショップだった。

(なんでジュエリーショップ…?)

春樹に降りる様に言われ、後に付いて降りた千夏だったが、何故ここで降ろされるのか分からず聞こうとする。

「あ…」

だが、先程の春樹の顔が脳裏をかすめ、出かけた言葉を千夏は飲み込んだ。

春樹が店へと近づくと黒服の男性がドアを開け“いらっしゃいませ”と挨拶した。
だが、春樹は店の前で足を止め一度振り返ると、まだ車の側に立つ千夏へ「さっさと来い!」と声を掛けた。
そこには、瞳を濡らした春樹は無く、威圧感を纏ういつもの春樹だった。

(あれ…さっきの…涙じゃなかったの?
…て言うかなんか怒ってる?)

千夏は坂下に助けを求めようと振り返ったが、坂下は何か気になるらしく、周囲を見渡していた。

(どうしたんだろう?)

「あの…坂下さん?」

「私はここで待ってます」

「え…?」

苛立ちを隠しきれなくなってきた春樹は、声を強め再び千夏を呼んだ。

「うさぎ、早く来い‼︎」

(えっ私だけ?)

何が何だか分からないまま千夏が春樹に駆け寄ると、春樹は千夏の腰に手を回した。

(えっ?ちょ、ちょっと!)

千夏は坂下の事が気になり、再び振り返ろうとするが、春樹はそれを許さないかの様に千夏を更に引き寄せ体を密着させ店の中へと入った。