出かけるから着いて来いと、無理やり車に押し込まれたうえ、問いかけにも応えて貰えない千夏の怒りはすでに爆発寸前だった。

(嘘つかれるのも嫌いだけど、無視されるはもっと嫌い‼︎)

だが、そんな千夏の気持ちなど知らない春樹は、ずっと窓の外へと視線を向けていた。

(何考えてるのよ⁉︎
何処へ何しに行くくらい教えてくれても良いじゃない!
無理やりな事は、二度としないって誓った癖に‼︎)

「ちょっと若頭‼︎
さっきから聞いてるのに、なんで何も答えないんですか⁉︎」

千夏はもう我慢出来ないと春樹の腕を掴み、こっちを向けと言わんばかりに揺すった。
だが、春樹は頑なに応えようとはしなかった。

(マジ、アッタマキタ‼︎)

「坂下さん!
次の信号で停まったら、やっぱり席代わって下さい!」

千夏は身を乗り出し助手席の坂下に訴えたが、千夏の訴えは冷たく却下された。

「危険だと言ったはずです!
何度も言わせないでください!」

「だって…」

(危険って…なにが?
今は大丈夫だって、昨日坂下さん言ったじゃ無い!
衝突事故を言ってるなら、突っ込む事もあれば突っ込まれる事もある、前後左右どの席に座っても確率が多少変わるだけで危険なのは一緒じゃない⁉︎
そんな事を恐れるくらいなら車なんてならない方が良いじゃない)

「ちょっと、若頭こっち見なさいよ!」

千夏は再び顔を向かせ様と、春樹の胸ぐらを掴み引っ張った。
すると、眼鏡の奥の瞳は涙を滲ませていた。

(え?なに…)

見てはいけないものを見てしまったと思った千夏は、そのまま手を離した。

(泣いてる?…あのチーフが?
なんで…え…私なにか…した…?
嘘…私が泣かせたの?)

その後は千夏も口を閉じ、静かになった車内は外部からの走行音とクラクションだけが微かに聞こえていた。