「おい!」

声がして振り返れば、入り口に春樹と坂下が立っていた。

「出掛けるぞ!」と春樹が言うと、達也と真司は見送りに出なくてはと返事をした。

「お前らは自分達の仕事してろ!千夏さん、若のお供を」と坂下が言った。

「え?…チ、若頭のお供ですか?…私が?」

(お供ってなんだ?…何処に何しに行くの?
私がついて行かなきゃいけない事か?)

取り敢えず蔵から出た千夏は、一度振り返り蔵の中へと向き直った。

「達ちゃん、真ちゃん、お買い物に行ってくるから、春君のそれ洗っといてくれる?」と言った。

(え⁉︎…いま…わたしナンテ言った…?
達ちゃん?真ちゃん?…春君って誰よ⁉︎)

千夏の言葉に、そこにいた全ての者が驚いていた。
特に春樹は目を見開き驚いていた。

「…達也さん、真司さん、あの…急に馴れ馴れしい呼び方してゴメンなさい…それ、お願いします」

訳が分からないまま、千夏は二人に謝った。

千夏は先を歩く春樹に、何度も何処に行くのかと尋ねたが、振り返るどころか早足に進んで行く。

「ちょ、ちょっと、何か怒ってます?」

千夏は振り返り、後ろから付いて来る坂下の顔を見るが、坂下は首を横に振るだけだった。

「何も話さないなら、もういい!」

(勝手に怒ってれば良いわ!)

千夏は後を歩く坂下に歩み寄り、いきなり坂下の左腕を掴んだ。

(どうせ、坂下さんも同じ車で行くんだろうし?)

そして千夏は「坂下さん、一緒に行こう!」と言って坂下と腕を組み春樹の後を歩いた。だが、直ぐに坂下は困ると言って、千夏の腕を振り解いたのだ。

(やっぱり…坂下さんも女の人はダメなのね…?)

玄関を出ると門前には既に車が横付けされており、千夏は助手席に乗りたいと言うが、坂下にダメだと断られた。

「なにが有るか分かりません。あなたは若と後ろに乗って下さい」

(何がってナニ?)

「チーフ!危険な事は無いですよね?」

「いいから早く乗れ!」

春樹はそう言うと後部座席へと千夏を押し込んだ。

(もう、何なのよっ⁉︎
私は協力者なんですからねっ⁉︎)