二十数年前…
子供の居ない夫婦が養子を迎えようとある施設を訪れていた。
その夫婦の名前は、小野田 浩司と妻 梨華である。

小野田夫妻は、毎週末施設を訪れては子供達と遊び、子供達と一緒に食事をとり、養子を迎える準備を進めていた。
とくに妻の梨華は養子を迎える事に積極的で、平日も暇を見つけては一人施設を訪れ子供達との仲を深めていた。
そして、小野田夫妻が養子に迎える事にしたのが、当時10歳と7歳になる男の子ふたり。
名を琢磨と信二と言う。

だが、二人を連れ施設を離れようとした時、小さな女の子が泣きながら裸足のまま二人を追いかけて来たのだ。

「おにぃちゃーん、おにぃちゃん、ちぃーちゃんもいく!ちぃーちゃんも…ちぃーちゃんも…」

女の子は二人のシャツの裾を強く握り、置いていかないでと泣き縋った。

施設の先生方が女の子を宥めなんとか手を引き離そうとするが、女の子の手は強く握りしめられけっして離そうとはせず大人達を困らせていた。
すると、琢磨と信二から小野田夫妻へ初めてのお願いがされた。

「千夏も一緒におじさんの子供にしてくれませんか?」と琢磨が浩司に向かって言い、
「千夏の事は僕達が面倒みますから!」と信二が梨華へ言った。
そして「「お願いします!」」と二人は小野田夫妻に頭を下げ懇願したのだ。

二人のその姿に初めは小野田夫妻も驚きはしたが、直ぐに顔を見合わせ微笑みあった。

「一姫二太郎か…?良いな?」と言って、浩司は女の子を抱き抱えると「君もうちの子になるかい?」と聞いた。女の子は浩司の首に腕を回すと小さく頷いた。

その姿に梨華は夫に嫉妬したのか、「浩司だけずるい!」と言って、両手を千夏へと出した。
そして、「ママにも抱っこさせて?」と微笑むと千夏は梨華の胸へと飛び込んだ。

そのまま浩司は園長の元へ話に向かい、小さな女の子も養子に迎える事になった。

女の子の名は千夏。当時3歳。