危ねぇ!

咄嗟に出した手が間に合ってホッとした。


子供の、乗った自転車は思ったより重くて

母親って力持ちだなって思った。

俺より小柄で細い腕なのに。


「すいません!ありがとうございます!」

半泣きの母親にただ、そこにいて良かったと思った。

「…いえ」

「あ、手、血が、絆創膏…」

「大丈夫です。手を離すと危ないですから、びっくりしたな?」

きょとんと、自分の状況が分かってない男の子にもそう言った。



何度も頭を下げてその親子は去っていった。

逆にゴメンって思うくらい。


『血が』

って言われた手を見ると、擦ったのか……

こういう傷って気づかなかったら痛くないのに、気付くと痛いよな……

ヒリヒリとする。

「地味に痛い」

誰かが吹き出して、声に出てたのかと

そっちへ振り返る。


「私、バンソーコ持ってるよ」


声の主は
同じ年くらいの……女子だ。

あ、同高(うち)の子か……

GW明け。確かにまだクラスメイト全員覚えてる自信はない。

こんなに自然に話し掛けてくるくらいだし
同じクラスだっけ?



「ああ、でも手の甲だし、ゲンコツのとこ。汗かいてるし、くっつかないじゃねぇ?」


「ハンカチで拭いたらどうかな」

「持ってねぇわ、そんなもん」

「あ、じゃあ…」

そう言って、自分のハンカチを取り出して、傷口を押さえてくれる。



綺麗な手、綺麗な指先。



スマホケースからバンソーコーを取り出して貼ってくれた。


くすぐったいような…感覚。

俺の手に触れる手と、傷口に向けられた目は
俺からは伏せられた様に見えて

長い睫毛に見とれてた。



「すぐ取れるかなぁ?」

「すぐに治る、サンキュー。ハンカチ洗って返す」

「え!いいよ!」

「汗拭いたやつ、恥ずかしいだろ」

「いや、私も既に拭いたの!」

「最後に使ったの、俺だし」

有無を言わさず、彼女のハンカチを自分のポケットにねじ込んだ。



「ま、同じ学校だし、よろしく!明後日にでも返す!」





そう言って自転車に乗った。

ハンカチって口実を無くしたくなかった。


絶対に同じクラスではない。

覚えてるはずだ、あんなに可愛い子がいたら。


男子がうるさいはずだ。


あー、でも……

街中でニヤけそうになって、ごまかす。



明日がちょっと、楽しみだな。


『昨日はありがとう』くらい話しかけたって


いいんじゃないか?