紗香との気まずさが解消され

心はいくらばかりか軽かった。


『木曜、部活休みになったから会える?』

工藤くんからメッセージが来たのは、翌日の朝だった。



『会えるよ』


そう返信した。



『じゃあ、前に会った本屋の前で』

工藤くんからの返信に息が止まった。



“前に会った本屋”


早くなる鼓動に、胸を押さえる。


覚えているの?


ハンカチを渡して絆創膏を貼ったあの日の事を。


それとも……月バスを買った日?


あの日は気づいて無さそうだったけれど……


直ぐに返事も出来ず、机に置いたスマホをただ眺めてた。



どういうこと?

知ってて?

覚えてて?

思い出して?



一気に息も吐けずに、途切れ途切れの息が

苦しい。



「ウィッス」

ふっちーに声を掛けられ、横を向いた。



「え、どうした?朝飯抜き?」


2本入りのカロリーメイトを差し出したふっちーに断りを居れて


「ごめん、ふっちー、私、間違えてて……工藤くん、紗香のこと好きなわけじゃないんだって」


「はぁ?」


とりあえず誤解を解くのにそう言った。


「紗香がクラスメイトに告白されたって言ってたから、私……てっきり工藤くんの事だと勘違いしてて……」


私がそう言うと


ふっちーは私が断ったカロリーメイトを引っ込めて

深いため息をつくと


「マジか、うわぁ、疲れた。いや、疲れて損した!」


と言った後で


「いや、クラスメイトから告られたのかよ、モテんな、アイツ。いや、まぁ、可愛いしな」


「あ、うん」

嫌だね、確かに。うんうん。



「断ってんの、アイツ」

「うん、そうだよ」


うんうん、そこ気になるよね。

私の温い視線にふっちーがカッと赤くなった。



「んー、じゃあ、工藤のメッセージ、何だ、あれ?」


「何だろうね」


「聞いてみるか?」


「木曜に会うから……あ、でもふっちーのメッセージと私の要件は別だよね。私は私で……聞きたいこと聞いてくる」


「おー、頑張れ」

「ふっちーもね」



「おー……」

ぶっきらぼうにそう言ったふっちーは

ものすごいホッとした顔で


まるで、昨日の私みたいだなって思った。



工藤くんのメッセージのままの画面に目を落として



了解を意味するジェスチャーのスタンプを一つ送った。