「ふっちー、朱里の事好きなんじゃないかなって思う」


紗香の言葉に、そうだった……そう思われていたことを思い出した。


つまり、私と紗香はテレコになった思い違いから、気まずくなった訳だ。


直ぐ様、否定しようと前のめりになった私に

紗香が決め顔でストップのジェスチャーをした。



「いいの、分かってる。“朱里は悪くない”」


それにさっちゃんが吹き出したもので、私も笑ってしまった。

ダメだ、止まらない。
早く否定してあげないと、紗香は辛いのに。


「あ、酷い!何がおかしいの?」

紗香はぷぅっと頬を膨らませて、私たちを睨む。



「今の顔!」

「だってさ、朱里もさ!工藤の事そう思ってたんなら分かるでしょ?“誰も悪くない”って事。……それに……ふっちーが朱里を好きでも仕方ないっていうか、朱里の良いとこ私も知ってるし、可愛いし……」

急に褒められたもので、私も照れながら


「え、紗香だって可愛いよ」

と言ったら


「気持ち悪い褒め合いしてんじゃないわよ」
と、さっちゃんが苦笑いして


「さっちゃんも綺麗だよ」

「あ、うん、綺麗、綺麗」


「褒めて欲しくて言ったんじゃないわ!」

さっちゃんがそう言いながらも照れた。


ん、んん!

と、さっちゃんの咳払いで話は戻り


「ふっちーの好きな人、私じゃないよ」

それ以上は言えないけど、そう言った。



「そうなの!?」

「うん」

「好きな人……は、いるんだね」

「うん」

「ありがとう」


紗香は誰?とも聞かなかった。


それは、多分……紗香も“自分で聞こう”と思っているからだ。



「……工藤くんも、好きな人がいるんだよね?」

「うん、ごめん……それで朱里には言えなかった


「紗香が告白されたから、気まずいのかと誤解してた」

「私も、ふっちーが朱里に告白したのかと思ってた」

「あれば、ただの例え話だよ」

練習の合間の昼時に、ふっちーと校庭で話してたのを皆が誤解した、あのセリフ……



「月バス……私には貸してくれないのは……朱里もふっちーを好きなのかと…疑っちゃった」


「違うんだよ、紗香。月バスね、ふっちーが……工藤くんに貸したの。だから、その……工藤くんが読んだやつは、誰にも……触られなくな…ああ!もう、恥ずかしい!」

そう言って、両手で顔を隠した。