「何で、工藤がAくんって事になってんの?違うから!」

紗香はそう言うと、ストンと座った。



……工藤くんがAくんて事になってる?

なってないの?


「……席が隣……って……」


「……今、隣は工藤だけど……ああ!席替えしてるわ!!そんなもーん!」


ちょっと待って。

ちょっと待って。


ちょっと、待って!!



「違うの?ねぇ、工藤くんから告白されてBやらCやら……えぇ!?」


「違う!工藤からは告白されてなーい!!」



「……落ち着きなよ、二人とも」
さっちゃんに諭されて


気づけば二人とも立ち上がって、同じテーブルだというのに、大声で言い合って


他のお客様方の視線をものすごい受けてる事に気付き


赤面して腰を下ろした。


レモンティーを一口。


紗香はシェイクを一口。


「ダメだ、潤わねぇ」

そう言うと財布を持ってレジへと向かった。




「ねぇ、違うじゃん!朱里の勘違いじゃん!」

さっちゃんが呆れたように、だけど…目をキラキラさせて、私を肘でつっついた。

レモンティーがストロー口から跳ねて

顔にかかったというのに、私も


「さっちゃーん!!」

嬉しくて抱きついた。



Lサイズのドリンクカップを手に戻って来た紗香が


「面倒くせぇ、実名で行く!」

そう言って、トレーの上の紙をいつかのように裏返した。


「紗香、オッサンみたいになってるよ」

「やだわ、ホント」

慌てて口を指先で押さえて


AからEまでのアルファベットを書き終えたところで


「ねぇ、紗香……その話は無関係だって分かったから、後でいい?」
さっちゃんがそう言うと


「ハッ!本当だ。もはや、どうでもいい。結論だけ言う。Aくんは、佐々木だ!」


「“佐々木”いいわ、“工藤じゃない!”って言ってくれる?」

さっちゃんがまたしても冷静にそう言った。



私と紗香はホッとし過ぎて……

顔を見合わせて笑った。


私はついでに、涙まで出てきたけれど。



「もうー!朱里も……ああ!もうこの際、全部言おう、全部言っちゃおうよ!!」


紗香がそう言って

私も


「そうする!」

明るくそう言った。



何よりさっちゃんが一番ホッとしていた。


「もー、良かった。はぁ、良かった」

そう言って、肩を上下させた。



「私から言わせて!」

そう言って、紗香が綺麗に挙手した。