月バスをベッドに置いて

そのページを開く。

閉じる。

開く。



その行動を何度も繰り返していた。


長い長い息を吐くと、ベッドの前に正座して顔だけをベッドに(うず)めた。


ここでふっちーの話をしながら、今の私と同じ様に、クッションに顔を埋めてた紗香を思い出した。



このどうしようもない気持ち、滑稽な行動も今なら分かる。



もう一度、はぁーっと長いため息をついて

月バスの……工藤くんから貰った“サイン”のページを開いた。




今日は、彼の名前が分かった日。


彼のメッセージアプリのIDの横に“工藤快晴”そう書いてあった。


「快晴……くん……」

名前を読んで見て、またベッドに顔を埋めた。



彼に私を知って貰えた日。


連絡先を知れた日。



彼からサインを貰った日。




……綺麗な字だな。

彼の名前をそっと、指でなぞった。



今度は天井を見ながら、細く、長く、息を吐くと


自分のスマホを開くと

そのIDを打ち込んだ。




誰かが撮ったものだろうか。
後ろ姿にブイサインのアイコン。


工藤快晴の文字。


そこをタップした。



それからまた、スマホのそのページを開いては閉じ、開いては閉じて……


月バスと同じ様に繰り返した。



何てメッセージを送ろうか。



相手が自分を認識していて、連絡先を知っているということは……


いつでも連絡が取れる。


その幸せに……顔は緩んだけれど


なかなかメッセージは送る事は出来ず



寝る前に漸く…
無難な、スタンプ、でも絵柄は可愛いやつを選んで

文章も無難なものを何度も読み返して送った。


直ぐに画面を閉じると、今度はベッドに潜って布団を被った。



寝る前にメッセージを送ったら

既読も返信も気にせずに、眠ってしまえば良いと思ったから。


なのに、結局眠れなくて……

明日が日曜で良かったと思った。



ちっとも治まらない動悸に、もうスマホの電源を切ろうと、手を伸ばしたその時に


短い通知音が鳴った。



慌ててスマホを掴むと

ポップアップ画面には、彼のアイコン。



震える手でタップした。



「連絡、来ないかと思った」

「聞きたい事があって」

短く分けられて、そうメッセージが2つ。



「何?」
直ぐにそう返信した。



「会って、話したい」

「部活の練習の予定があるから、また連絡していい?」


細かく区切るのは彼の癖なのか……


私は、ただOKのスタンプを送った。



“また”

その日がいつになるか分からないけれど……それまでにはもう少し、この忙しない心臓が落ち着いてくれたらいいんだけど。

メッセージのやり取りが終わっても



この日はなかなか眠れなかった。