「恋すると疑心暗鬼で……そっか、そうだよね。ごめん、朱里」


「うん、いいよ…。昨日、ふっちーが来る前に紗香に挨拶して過ぎ去った人がね……私の好きな人なんだ」

「え!?そうなの?……じゃあ……」

「うん、紗香の事が好きなんだよ。あの人……」

「あの人、朱里の事は気づいてた?」


私は黙って首を横に振った。


きっと、覚えてもいないだろう。あの人は……




「あー……朱里も辛いとこだね」

むっちゃんもそう言うと、それきり二人で黙っていた。



暫くの沈黙の後


「ねぇ、やっぱり紗香に話したら?紗香だって協力してくれると思うし……」


私はもう一度首を横に振った。


「自分の振られた相手に、他の女の子をすすめられたら……どう?あの人だって、辛いよ」


「……そう…だね。だけど、朱里はそれでいいの?こうやってK高がうちの高校に来ることなんて、もうないかもしれないよ?そうなると、またどこかで偶然会えるのを待つの?」



そうだ。
結局、こうなっても尚、
“会いたい”と思うから今日も……ここへ来ているのだ。



あの人に“会う”ために。


「会わなければ、忘れられるのかな……」


「どうすれば忘れられるか……なんて、考えてるうちは無理だろうね。どうなるかなんて分からないよ。ね、朱里」

むっちゃんにそう言われ

私は…頷いた。


自分でも分かってる。
このままじゃダメだって、このままじゃ嫌だって。

私を……知って欲しいって。



「月バスでも、ハンカチでも、ふっちーでも、紗香でも何でもいいから、何とか話す機会作るべきだよ」


私が
「うん」
頷くと


「今日中にね」
むっちゃんがそう言って、私の背中を押してくれた。




「おはよー!朱里もむっちゃんもはやーい!」

紗香が笑って、こちらへ向かって来た。





「それと、昨日の事……紗香も誤解してるかも。どのみち、紗香には話した方がいいよ」

むっちゃんが、私の耳元で小さな声でそう言った。



それによって、私とふっちーの誤解は解けるかもしれないけど……


自分が振った相手を私が好きだと分かれば、新たに悩ませるんじゃないかと……


私と紗香の関係はそんな簡単に崩れたりはしないだろうと思いたいけど……



それに、自分の好きな人が紗香を好きだなんて……

結局、それが一番辛くて、私は中々口に出せないでいた。