「言うなよ、絶対に誰にも」

その前振りから、誰が好きなのか教えてくれるのかと思ったら…

「気になるやつがいるだけ」

ボソリとそう言った。


「それっ…」

「お前は、誰かいんの?」

私が聞く前に、そう聞き返され…

ふっちーのことを笑えないくらい動揺した。


昨日たった1度会っただけの人が
“好き”だなんてどうかしてる。


だけど、何度も頭の中に出て来ちゃう。


「ち、違うよ、私は…少し気になるだけ」

「誰も何も言ってねぇのに“違う”って何だよ。ま、お互い秘密ってことで」

「え、いつまで!?」

早く紗香に言いたくてそう聞いてしまった。


「…いつ?いや、どうだろ…誰かに言いたいわけ?」

「いや…どうするのかなって…」

思って…

そうだ、紗香に言いたいって
“ふっちー気になる子いるみたいだよ!”って言ったらどうなる?

それ、紗香は聞きたい?

“気になる子”が誰なのか、不安になるだけだよね。

もしそれが紗香だったとしても、私から聞きたいものなのかな?

「……どうにか、しなきゃな」

ふっちーがそう言った。


「どうにかするまで、秘密にしとくね」

そうだ、誰にも…
言っては駄目だ。


紗香が、自分で聞けばいいと思う。

それしかないと思う。


ごめん、紗香。

少しの秘密をふっちーと共有することになった。



私の方は…
“どうにか”出来ないのだけれど。


どうにかするつもりは無いのだけど

分かっているのに、足が勝手に

街へと向かう。


ハンカチを渡したあの場所へ。


あのハンカチ…どうなったのかな。


私に返そうと、してくれたのかな。



同じ高校だったらなぁ。

せめて姿くらいは探さなくても見れただろう。



昨日も、今日も

明日も、私はここで彼の姿を探してしまう。


もう一度会えたら?

彼と同じ制服に息が止まる。


彼じゃない。


そう思ったら、息を吐くことが出来た。




探しているのに、会ったらどうなるのだろう。

会わない今だって、何か、苦しいのに。



柔らかそうな髪。思い出すのは頭で、なのに
苦しくなるのは、胸。


浅い息を繰り返す私は…


多分、恋の病にかかってしまった。




心肺機能に異常発生。


紗香の気持ちが分かるようになってしまった。


だけど、私は……
“制服をかえっこして”なんて言えずに


紗香の好きな人の学校に忍び込む勇気を讃えた。