「美穂、やめてやれよ」

「なんでよー、娘のことはなんでも知っておきたいじゃない」

「別にいいだろ、風夏に彼氏……彼氏の1人や2人くらい……」



お父さんは自分で言った彼氏という言葉にショックを受けてブルブル震え出した。

手元に持ったコーヒーが大きく波打つ。



「……彼氏を優先するのはいいけど、たまにはパパと一緒に出かけてくれ」



都合の悪い時は一人称がパパになるお父さん。

お父さん、彼氏できたとは言ってないのに、もうすでに泣きそうなんだけど。

ほんと、ウチの両親は昔から両極端すぎる。



「毎日会うわけじゃないから大丈夫だよ。
それに夏休みだから、言ってくれたらお父さんと出かけられるよ」

「分かった、今度キャンプに行こう」

「うん、いいよ」

「ほらね、やっぱり彼氏できたんだ。
道理で最近かわいくなったと思った!」

「もう、お母さんはからかうのやめてってば!」

「からかってない、嬉しいの」



泣きそうな顔でキャンプに誘うお父さんと、ニヤニヤ笑って近づいてきたお母さん。

恥ずかしくて離れるとお母さんは「よかったね」と優しい顔で笑って掃除を再開した。