「お、お願いします……」



恐る恐る助手席に座ると、スピーカーから聞こえてくる洋楽とふんわり香るムスクの匂い。

うわ、オシャレな人の車って感じ。

高級車だから座り心地がよくて変に落ち着かない。



「今日はどこ行きたいんだっけ」

「たまごサンドとふわふわかき氷のお店です!
ここからだとサンドイッチのお店が近いです」



住む世界が違うってこういうことだろうな。

スマホのナビを開きながら私は混乱していた。



「匂い、大丈夫?」

「大丈夫です、家の芳香剤も同じような匂いだから」

「そうなんだ……あ、クーラーつけてるけど寒くなったら言ってね」

「はい」



さらっと気遣いできるし、ハンドルを握る横顔がかっこよくて平常心じゃいられない。

むしろクーラーガンガンにしてくれてありがたい。

いろんな意味で熱が冷めないから。



「あ……車だと結構距離あるんだ。
あの、車出してくださってるから今日のガソリン代払いますね」

「いいよ、バイトしてるから大丈夫」



ようやく冷静になって話しかけたけど拒否された。

え?でも運転って疲れるだろうから、できれば出させて欲しいんだけど。



「バイトって、モデルの?」

「それもあるけどいろいろしてるよ、教授の研究の手伝いとか試験監督とか、家庭教師も」



ふーん、結構いろいろしてるんだ。

教授の研究の手伝いって何するか気になるけど、家庭教師も気になる。