家を出るとマンションの駐車場に春臣くんの車が停まっていた。



「お待たせしました、春臣くん」

「待ってないよ……あー、いい匂いする」

「ほんとですか?春臣くん鼻がいいんですね」

「アップルパイ好きだから余計にね」



助手席に乗って、アップルパイを入れた箱を膝の上に乗せる。

春臣くんは嬉しそうに「早く食べたい」と呟いた。



「どうしてアップルパイが好きなんですか?」



そんなに好きなの?気になってる聞いたら晴臣くんは前を向いたまま固まった。



「なんでだろう……たぶん、親が好きだったから」

「え?」

「俺、最近気がついたんだけど。
独りで生きていけるって言いながら親の影をずっと探してた」



想定外の答えに聞き返してしまった。

だけど嫌な顔せずに両親の話題を出せるようになったのは、関係が良好になった証拠だと思う。



「風夏ちゃんと初めて行ったハンバーグの店も、両親の思い出の場所なんだって。
そういうのを思い出すと、さみしかったんだなって実感した」

「……今は?」

「今はもう大丈夫。この前父さんとその店行ってきた」

「そうだったんですね、よかった!」



さみしかったのは過去形なんだね。

お父さんともようやく肩を並べたみたいで本当に良かった。